アメリカで生まれつき左脳の無い赤ちゃんが生まれた。
左脳は言語などの機能をつかさどるのであるが、彼は一生しゃべることができないと思われていた。
しかし、成長するごとに彼の左脳は発達、肥大していき、頭の半分空っぽだった部分も
左脳で覆われるようになった。
そして彼はしゃべることができるようになったんである。
女の子(名前をつけよう。「ハルちゃん」にした。)は、14歳になったある日、岡山の研究所から
筑波の施設へと移される。
そして、いろいろとなぞの訓練をさせられるのである。
一日中プールで泳いだり。パソコンの使い方を学ばされたり。
遠心力に耐える訓練をさせられたりなど。そりゃあもう、過酷な訓練である。
普通の人間ならば思春期の年頃である。
嫌になったハルは「おじさんのためのワード入門」と「サルでもわかるエクセル」と「イラストレーター超速習得」をビリビリに破いて研究所から脱出する。
山頂に位置する研究所から抜け出したハルは、山を駆け下りる。そして実家に帰ろうと決意する。
夜道の帰路を歩く、サラリーマンを見つけ
「すみません。携帯電話かしていただけませんか?すぐに済みますので。」
と言ったが、ニホンザルは喉の構造上、泣き声や吼え声しかだせないので
「キッキキキイイイイキーーキー!キキイー?」
としか聞こえないのであった。
サラリーマンは「うわ」といいながら逃げようとした。
もう、これは襲うしかない。私は喋れないけど、鋭い爪やキバがある。
ハルはサラリーマンに噛み付き、ジャケットの内ポケットから財布と携帯電話を盗んだ。
そして、実家に電話をする。携帯がインフォバーだったので、サルの指でも番号が押しやすい。
「もしもし~」
久しぶりに聞く母親の声にハルは涙する。
「キキーーキー」
さすがにいたずらだと思われて電話を切られる。
しかし、ハルはリダイヤルする。諦めるわけにはいかない。
さすがはインフォバー。リダイヤルも押しやすい。
「もしもし」
「キーキー・・・。」
「・・・・・もしかして、ハルちゃん?」
「キーー!キキーキ!(うん。そうだよお母さん。)」
「・・・ハルちゃん・・・ごめんね。ごめんね」
そういいながら泣く母親、受話器の後ろで赤ん坊の泣き声が聞こえる。
そうか、兄弟ができたんだ。サルの娘なんかいても、近所や親戚など、その辺を考えると
いないものにされてもしょうがない。
ものわかりのいいハルちゃんである。
やるせない思いを胸に、電話を切る。そして、遠吠え(号泣)をする。
携帯をポケットに入れようとするが、サルにポケットがついているわけは無い。
ああ、私は服も着ていない。ただの野ザルなんだ。
いくらインフォバーがスリムでも、私には携帯を携帯することすらできない・・。
人間ではないから。
母の声を聞けただけでも幸せであった。
サラリーマンに悪いことをした。
使いやすい携帯だった、ありがとう、インフォバーと深沢直人。
いろいろとめぐる想いから、
ほんとなら投げ捨ててもいいぐらいの不運なハルちゃんであるが、
深夜の交番の前に、そっと携帯電話を置く。もちろん電源も切る。
さすがは女の子。気配りは忘れない。
(ごめんなさい。まだつづきます)